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2011/11/17 「海の底」 有川浩 角川文庫

海の底 (角川文庫)

海の底 (角川文庫)

米軍横須賀基地に超巨大化したザリガニのような、「サガミ・レガリス」という生物が大量発生して街や市民を襲うと言うお話。
その中で、停泊中の海上自衛隊潜水艦「きりしお」内での隊員と彼らに救出された子供たち。また、その事件をとりまく警察、自衛隊、官邸、米軍、マスコミ、軍事オタクなど様々な視点が絡み合い物語は進行していく。

官邸の意思決定の遅さや、マスコミの視聴率を獲得するための報道の手段。また、現場の巨大ザリガニとの死闘の状景がものすごくリアルで、東日本大震災後の政府や日本国内での動きと重なりかなり引き込まれる。

また、「きりしお」内での子供たちと自衛官とのやり取りもとても見所がある。
特に圭介という中学生の少年に感情移入した。彼はかなり性格が歪んでいて、自己中でワガママでマザコンないわゆる悪役のような役回りなのだが、それは家庭の事情から来るものなのだ。



親から誉められたい。母親の言うことは絶対。

幼い男の子であれば必ずみんなそうであるはずだ。僕もそうであった。

「だってママがそう言ってたもん」

と言うようなセリフは幼い頃には、誰でも発言していたはずである。
しかし、いつからかそれはおかしい事だと分かるようになり、自分で考える能力を身につけて、やがて大人になっていくのである。

圭介少年は親に反抗することなく(特に母親)、このような成長を超えることなく中学生となり、この事件を迎えた。

圭介少年の母親がかなり歪んでおり、それが圭介の思考に大きく影響しているのだ。

この事件を通じて、彼が自分の未熟さに気づき、不器用ではあるが成長していく。その過程もこの物語の重要なポイントであると感じた。


読み所はたくさんあるが、この圭介少年の関わる場面は特に熱中した気がする。


また救出された子供たちの中で唯一の女の子である望の恋心なども、物語が進行するにつれて気になるポイントにもなってきた。


物語は巨大ザリガニが襲ってくるという怪獣物のようなトンデモ物語の設定だが、本質は登場人物たちの気持ちの中のリアルな動きにあるのだと感じた。